大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成元年(行ウ)144号 判決

原告

株式会社明石書店

右代表者代表取締役

石井昭男

原告

株式会社亜紀書房

右代表者代表取締役

棗田金治

原告

株式会社一光社

右代表者代表取締役

田村大吉

原告

株式会社英友社

右代表者代表取締役

折登洋

原告

株式会社オリジン出版センター

右代表者代表取締役

竹内辰郎

原告

株式会社凱風社

右代表者代表取締役

小木章男

原告

解放出版社こと小林健治

原告

垣内出版株式会社

右代表者代表取締役

垣内健一

原告

株式会社学苑社

右代表者代表取締役

佐野剛

原告

株式会社仮説社

右代表者代表取締役

竹内三郎

原告

株式会社技術と人間

右代表者代表取締役

高橋曻

原告

株式会社教育史料出版会

右代表者代表取締役

橋田常俊

原告

株式会社現代書館

右代表者代表取締役

菊地恭子

原告

株式会社健友館

右代表者代表取締役

坂本遵

原告

株式会社源流社

右代表者代表取締役

垣本武伯

原告

恒友出版株式会社

右代表者代表取締役

西藤善郎

原告

有限会社思想の科学社

右代表者代表取締役

加太一松

原告

株式会社社会評論社

右代表者代表取締役

松田健二

原告

株式会社新泉社

右代表者代表取締役

小汀良久

原告

株式会社蒼樹書房

右代表者代表取締役

仙波喜三

原告

株式会社第三書館

右代表者代表取締役

北川明

原告

株式会社柘植書房

右代表者代表取締役

西村祐紘

原告

株式会社冬芽社

右代表者代表取締役

小島光

原告

株式会社図書出版社

右代表者代表取締役

山下三郎

原告

株式会社七つ森書館

右代表者代表取締役

中里英章

原告

株式会社八曜社

右代表者代表取締役

後藤豊

原告

有限会社批評社

右代表者代表取締役

佐藤英之

原告

図書出版風媒社こと

稲垣喜代志

原告

株式会社ブロンズ新社

右代表者代表取締役

目黒實

原告

株式会社ぺりかん社

右代表者代表取締役

救仁郷建

原告

株式会社めこん

右代表者代表取締役

桑原晨

原告

株式会社めるくまーる

右代表者代表取締役

和田禎男

原告

株式会社緑風出版

右代表者代表取締役

高須次郎

原告

株式会社れんが書房新社

右代表者代表取締役

鈴木誠

原告

株式会社論創社

右代表者代表取締役

森下紀夫

右訴訟代理人弁護士

角南俊輔

星正秀

山口廣

被告

公正取引委員会

右代表者委員長

梅澤節男

右指定代理人

小畑徳彦

外一名

被告

右代表者法務大臣

田原隆

右被告両名指定代理人

笠原嘉人

外四名

主文

一  原告らの被告公正取引委員会に対する請求をいずれも却下する。

二  原告らの被告国に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告らの請求の趣旨

1  被告公正取引委員会(以下「被告公取」という。)が平成元年二月二二日付けでした別紙二記載の「消費税導入に伴う再販売価格維持制度の運用について」と題する公表文(以下「本件公表文」という。)の公表処分を取り消す。(主位的請求)

2  被告公取が平成元年二月二二日付けでした本件公表文の公表処分が無効であることを確認する。(予備的請求)

3  被告国は、各原告らに対し、別紙三損害金額一覧表(三)の総合計欄記載の各金員及びこれに対するいずれも平成元年八月二日から各支払済みに至るまで年五分の割合による各金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

5  右3項について仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの本案前の答弁

1  原告らの請求をいずれも却下する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

三  請求の趣旨に対する被告らの本案の答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  請求の趣旨3項について担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  原告らは、いずれも書籍等の出版を業とする会社あるいは個人であり、また、中小出版業者で構成されている出版流通対策協議会(以下「流対協」という。)の構成員である。

2  被告公取は、平成元年二月二二日付けで、消費税導入に伴う再販売価格維持制度(再販制度)の運用に関して本件公表文を公表し、原告らは、本件訴え提起の日である同年七月二〇日から逆算して三か月以内の日である同年六月六日になってこの事実を知った。

3  右公表文では、「独占禁止法第二四条の二では、『再販売価格』は、再販商品を買い受けて販売する卸売業者や小売業者が『その商品を販売する価格』とされている。したがって、小売段階の再販売価格は、消費者が支払う消費税込みの価格である。」としており、このような見解を踏まえて、被告公取は、右公表文の一の(三)のアで、再販売価格の具体的な表示方法を指定し、書籍のようないわゆる法定再販商品について、従来の定価概念を変更し、消費税込みの価格を定価とすべきことを指示している。

4  しかし、被告公取のした右公表文の公表には、次のとおりの違法及び無効事由がある。

(一) 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)二四条の二の規定の解釈の誤り

独禁法二四条の二第一項及び四項によれば、書籍の再販売価格は、その生産、販売を行う事業者すなわち出版社がこれを決定、維持するものとされていることは明らかである。ところが、右公表文のいうように、書籍の定価を消費税込みの価格とするならば、消費税の税率が出版社の意向とは無関係に決定、変更されるものである以上、書籍の定価を出版社が決定、維持することはできないこととなる。

また、独禁法二四条の二によれば、再販売価格とは当該商品たる書籍が最終消費者たる読者に販売される価格をいうものと解される。ところが、消費税は、流通の前段階の税を次段階へと順次転嫁していくものであるから、書籍が読者に販売される段階での消費税の税率は、出版社、流通業者及び書店の各段階での課税、非課税の別(消費税については、売上高が三〇〇〇万円以下の事業者については免税、売上高が六〇〇〇万円未満の事業者については限界控除制による税の軽減の扱いが定められている。)、あるいはその各段階での仕入原価率の差によって、〇パーセントから三パーセントの間でいかようにも異なってくるものであり、右再販売価格のうち生産者たる出版社が自ら決定、維持することができるのは書籍の本体の価格分だけということにならざるを得ない。そうすると、右公表文のいうように、右再販売価格を消費税込みの価格と理解することになれば、出版社ではこれを自ら決定、維持することができないこととなってしまう。

したがって、本件公表文は、独禁法二四条の二の規定の解釈を誤った違法なものである。

(二) 税制改革法一一条等違反

税制改革法一一条一項は、事業者が必要と認めるときに消費者等にその取引に課せられる消費税の額が明らかとなる措置を講ずるものとする旨を定めるのみであり、小売段階の商品の売買価格の表示にいわゆる内税方式をとるか外税方式をとるかを事業者の自由な選択に任せている。現に、消費税導入後の書籍の定価表示については、原告ら中小出版業者を中心として、消費税抜きの本体価格のみを表示する外税方式を希望する者が多かったのである。

ところが、本件公表文は、税法が強制していない内税方式を、再販商品であることを理由に書籍について強制しようとするものである

したがって、本件公表文は、独禁法二四条の二及び税制改革法一一条の規定に違反する違法なものである。

(三) 独禁法一条違反

独禁法一条は、同法の目的を「公正かつ自由な競争を促進し……、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発展を促進すること」にあるものと規定している。

ところが、本件公表文の公表により、書籍について税込価格を定価として表示せざるを得なくなり、しかもその税額が税率の変更等によって変動する可能性があることから、従来書籍の奥付にされていた定価の表示がカバーに移行される例が多くなっている。その過程で、同一の書籍で異なる定価の表示されたものが同一書店の書棚に並び、定価の金額の端数を丸めて便乗値上げを行うといった事例が発生している。

このように、本件公表文の公表は、出版、流通、小売業界に混乱をもたらし、一般消費者に不利益をもたらすものであり、独禁法一条に違反する違法なものというべきである。

(四) 独禁法二四条の二第一項ただし書違反

独禁法二四条の二第一項ただし書は、同項本文の規定によって再販売価格の維持行為(再販行為)が許される場合であっても、一般消費者の利益を不当に害することとなる場合にはそれが許されなくなるものとしている。

ところが、本件公表文は、その一の(1)のイにおいて、消費税の導入に伴い再販行為を実施する事業者が、免税事業者と課税事業者に対し消費税相当分を含んだ同一の再販売価格を設定することも可能であるとして、免税事業者が消費者から消費税相当額として受け取った代金を自らのものとすることを認めている。これは、まさに一般消費者の利益を不当に害するものといわなければならない。また、この税込定価の表示のために、出版社は、書籍のカバーやスリップの刷り直し、シールの貼付などに余分の出費を強いられることとなるが、これらの出費は結局は消費者に転嫁されることとならざるを得ないから、このこともまた、一般消費者の不利益を招くものであることは明らかである。

したがって、本件公表文の公表は、独禁法二四条の二第一項ただし書に違反する違法なものというべきである。

5  被告公取の事務当局者は、平成元年四月からの消費税法の施行に際して、昭和六三年一二月二八日、日本書籍出版協会(以下「書協」という。)、日本雑誌協会(以下「雑協」という。)、日本出版取次協会(以下「取協」という。)及び日本書店商業組合連合会(以下「日書連」という。)のいわゆる出版業界四団体の代表に対し、書籍の定価の表示に当たっては消費税込みの価格を出版物の本体に表示する内税方式を原則とするようにとの指導を行うとともに、右指導に従わない出版業者が多数出るようになった場合には、書籍に対する再販制度自体を見直すこともあり得るとして、右指導に従うことを強要した。また、原告らの加入する流対協の幹事に対しても、平成元年一月一三日、四月一九日及び七月六日の三回にわたって、右内税方式による価格表示を行うようにとの指導、勧告を行うとともに、前同様の強要を行った。更に、同年二月二二日には、本件公表文の公表を行っている。

しかし、公取の事務当局者による右のような指導及び勧告あるいは本件公表文の公表は、法律上何らの根拠もないのに、その権限の範囲を逸脱してなされたものであり、国家賠償法一条一項にいう国の公務員の違法な公権力の行使に当たるものというべきである。

6  被告公取の事務当局者の右のような違法行為により、原告らは、その出版に係る書籍について新しく消費税込みの定価の表示をすることを強制され、そのため、カバーの刷り直し、新表示のシールの貼付等のための余分の出費を余儀なくされることとなった。

これによって原告らの被った損害の額は、別紙三損害金額一覧表(一)記載の既に発生した損害と同表(二)記載の今後確実にその発生が予想される損害に慰藉料を加えた同表(三)の総合計欄に記載した各金額となる。

7  よって、原告らは、被告公取に対しては、主位的に、行政処分の性質を有する本件公表文の公表処分の取消しを求め、また、右取消訴訟が出訴期間経過後に提起されたものとされる場合には、予備的に、右公表文の公表処分によって将来にわたって受けるおそれのある損害を避けるため、右公表文の公表処分の無効確認を求め、更に被告国に対しては、国家賠償法による損害賠償として、各原告に対し、別紙三損害金額一覧表(三)の総合計欄記載の各金員及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成元年八月二日以降の民法所定の遅延損害金を支払うことを求める。

二  被告らの本案前の主張

1  本件公表文の公表は、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないから、右公表文の公表の取消しあるいはその無効確認を求める原告らの被告公取に対する訴えは、いずれも不適法な訴えとして却下されるべきである。

すなわち、事業者の具体的な活動が独禁法に違反するか否かは、本来個々の事案ごとに判断されるべき問題であるが、独禁法の規定が一般的、抽象的なものであることから、被告公取は、従来から必要に応じて、独禁法の個別規定についての考え方を公表してきている。本件公表文も、消費税の導入に当たって、関係業界等から被告公取に対して、再販売価格の設定やその表示方法に関する照会等があったことから、消費税導入に伴う指定再販商品及び法定再販商品(書籍はこれに当たる。)の再販行為が消費者の利益を不当に害することのないようにするため、公表されたものである。本件公表文は、その文言からして明らかなように、消費税の導入に伴う再販商品の再販売価格の設定、その表示方法、その変更及び届出の方法等に関する被告公取の法解釈あるいは考え方を示したに過ぎず、その公表が直接国民の権利義務を形成し、あるいはその範囲を確定するようなものでないことは明らかである。したがって、右公表文の公表は、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないものというべきである。

2  原告らが被告公取に対して本件公表文の公表の取消しを求める訴えは、出訴期間経過後に提起されたものであるから、この点からしても、不適法な訴えとして却下されるべきである。

すなわち、被告公取は、平成元年二月二二日に本件公表文を公表するとともに、これを書協、雑協等の関係業界団体に配布しており、その内容は、間もなく一般紙及び業界紙にも掲載された。消費税導入後の書籍の定価表示の方法については、流対協を含む出版業界において強い関心が持たれていたところであるから、原告らは右公表文の公表後間もなくその事実を当然知ることとなったはずである。現に、原告らの主張にもあるとおり、同年四月一九日には、流対協の役員が公取事務局の担当者と面談し、本件公表文の内容について会談をしているのであるから、流対協の会員である原告らも、遅くとも同日までには、本件公表文の公表の事実を知っていたはずである。そうすると、同年七月二〇日になって提起された右訴えは、三か月の出訴期間を経過した後に提起された不適法なものといわなければならない。

3  原告らの被告国に対する国家賠償請求の訴えは、被告公取に対する抗告訴訟に併合して提起されたものである。しかし、右抗告訴訟が不適法な訴えとして却下されるべきものであることは前記のとおりであるから、右被告国に対する訴えも、併合要件を欠く不適法な訴えとして却下されるべきである。

すなわち、抗告訴訟に併合して提起された関連請求に係る訴えが併合要件を欠くため不適法な併合の訴えとなる場合において、右関連請求に係る訴えの併合が専ら抗告訴訟と同一の訴訟手続内で審判されることのみを目的としてなされたものであるときは、右関連請求に係る訴えは不適法として却下されるべきものと考えられるところである。ところが、本件国家賠償請求の訴えが、本件抗告訴訟の争点である本件公表文の公表の適否をそのほとんど唯一の争点としていることからすれば、右国家賠償請求の訴えの併合は、専ら本件抗告訴訟と同一の訴訟手続内で審判されることのみを目的としてなされたものと見ることができる。そうすると、右国家賠償請求の訴えは、不適法な訴えとして却下されるべきこととなる。

三  本案前の主張に対する原告らの反論

本件公表文の公表は、独禁法四三条によって被告公取に特別に付与されている公表権の行使、すなわち公権力の行使としてなされたものであることは明らかである。もともと、公取は、準立法的権限をも認められている特殊な行政機関であり、これまでにも、事業者団体のどのような活動が独禁法違反となるかについての公取としての具体的な運用方針を、これに抵触する行為があれば摘発を行うとの意味を持った一種のガイドラインとして公表するという準立法的行為を行ってきている。本件公表文も、まさに右のような性質を持つガイドラインとして公表されたものである。しかも、被告公取は、再販行為の行き過ぎを監視するとの名目のもとに、出版関連業界の取引実態について細部にわたる調査を行い、種々の監督、指導を行ってきているのであって、出版業者は、被告公取の行う指導には常に服従せざるを得ないという実態になっている。このような状況のもとで行われた本件公表文の公表は、命令と同様の拘束力を持つものとして、原告らを含む出版社に対して直接に、書籍に関する従来の定価概念の変更と定価の表示方法の変更とを強制する効果を持つことは明らかである。このように、行政庁の行為が国民の権利、利益を一方的に規律し、国民に対して現実に不利益を及ぼしている場合には、その行為の行政処分性が肯定されて然るべきである。

四  請求原因に対する被告らの認否及び反論

1  請求原因1の事実は知らない。

2  同2の事実のうち、被告公取が平成元年二月二二日付けで本件公表文を公表したことは認めるが、原告らがこの事実を同年六月六日になって知ったとの事実は争う。原告らがこの事実を遅くとも同年四月一九日までには知っていたものと考えられることは、前記のとおりである。

3  同3の事実のうち、本件公表文に原告らの主張するとおり小売段階の再販売価格が消費税込みの価格であるとする記載があることは認めるが、その余の事実は否認する。

4  同4の本件公表文の公表が違法であるとの主張は争う。この点の原告らの主張に対する反論は、後記7のとおりである。

5  同5の事実のうち、被告公取の担当者が出版四団体の代表に対して再販売価格が消費税込みの価格であるとの見解を示したこと、また、同担当者が流対協役員らと三回にわたって面談し、平成元年一月一三日の面談の席で前同様の見解を示したことは認める。その余の事実は否認し、本件公表文の公表等が違法であるとの主張は争う。本件公表文の公表等は、消費税の導入に当たって、再販商品の再販行為が消費者の利益を不当に害することのないようにするため、あるいは消費税の導入に伴う無用の混乱を未然に防止するためになされたものであり、何ら違法なものではない。

6  同6の事実は知らない。なお、原告らが在庫本に新しい定価表示のシールを貼付する等のための出費を要することとなったのは、消費税の導入に伴って原告らが在庫本の再販売価格を三パーセント(消費税額相当分)引き上げたためであり、被告公取による本件公表文の公表や行政指導によってその出費を強いられることとなったものではない。

7  本件公表文の公表は、次のとおり、何ら違法なものではない。

(一) 再販売価格の設定について

本件公表文は、その一の(1)のアで、独禁法二四条の二にいう「再販売価格」について、「小売段階の再販売価格は、消費者が支払う消費税込みの価格である。」としている。

この解釈は、同条の規定で再販売価格が「当該商品を買い受けて販売する事業者が、その商品を販売する価格をいう。」とされていること及び従来から小売段階における再販売価格がいわゆる間接税(物品税)分を含む価格であるとされてきたところからして、何ら解釈をゆがめた違法なものではない。すなわち、消費税法では、書籍(課税資産)を販売(譲渡等)する書店等(事業者)が、その売上げの中から所定の計算方式によって算出された額の消費税を納付するという仕組みになっているのであり、書籍の購入者が書籍の価格に加えて別途消費税を書店に納入し、書店が購入者から徴収した消費税を購入者に代わって国に納付するという仕組みになっているものではないのである。

なお、独禁法二四条の二が例外的に同法の適用が除外されるものとしている再販行為とは、生産者が責任を持って消費者の支払う小売価格を決定、維持する行為をいうのであって、法は、生産者が小売業者の最低販売価格のみを定めその価格以上であれば小売業者がいくらで売るかを自由に決定できるというような行為を適法としているものではない。したがって、出版社が自ら出版する書籍の小売価格について、消費税抜きの価格のみを決定し、これに消費税分としていくら上乗せするかを書店の自由に任せるという行為は、同条にいう再販行為とは認められないものである

(二) 免税事業者と課税事業者との間に同一の再販売価格を設定することの可否について

本件公表文は、その一の(1)のイで、消費税の導入に伴い、免税事業者と課税事業者に対する再販売価格を、消費税相当分を含んだ同一の価格とすることも可能であるとしている。

再販制度のもとでは、従来から、再販商品を買い受けて販売する個々の卸売業者や小売業者の仕入価格や利益率が異なる場合であっても、再販行為を実施する事業者が統一的な再販売価格を指定することが認められているところである。また、消費税の導入後は、再販商品を買い受けて販売する小売業者が免税事業者である場合であっても、その仕入価格は原則として消費税込みの価格となることであるし、また、再販行為を実施する事業者の側でも、免税事業者と課税事業者に対して異なる再販売価格を設定した場合には、その再販商品を買い受けて販売する卸売業者や小売業者が免税事業者に当たるか否かを把握するための作業が必要になるほか、再販商品の配送等の作業が煩雑化するため、コストアップを生ずることとなり、これらのコストアップ分が再販売価格を上昇させる可能性は十分に考えられるところである。そうすると、消費税の導入に伴い、再販行為を実施する事業者が、その消費税率の範囲内において、消費税相当分を上乗せした価格を課税事業者と免税事業者に対する統一的な再販売価格として設定したとしても、これをもって直ちに、独禁法二四条の二第一項ただし書きの「一般消費者の利益を不当に害することとなる場合」に該当するものとすることはできないものと考えられる。

本件公表文の右の記述は、このような考え方を前提とするものであるから、何ら違法なものではない。

(三) 再販売価格(定価)の表示方法について

本件公表文は、その一の(3)のアにおいて、再販売価格の表示方法を例示している。

これは、被告公取の前記のような再販売価格の考え方に従い、消費者の適正な商品選択に資する観点から適当と考えられる右再販売価格の表示方法を例示したに過ぎず、そこに例示された表示方法による限りは独禁法上の問題が生じないというにとどまるのであって、これ以外の方法が常に独禁法上違法との評価を受けるとするものでないことは明らかである。すなわち、本件公表文の右の記載は、原告らの主張するように再販売価格の表示方法について内税方式を強制したというものではない。

したがって、右の記載も、何ら違法なものではない。

(四) 一般消費者に生ずる不利益について

原告らの主張するカバーやスリップの刷り直し等に要する出費を消費者に負担させることとするか否かは、本来各出版社において決すべきことがらである。仮に、出版社が通常の紙代、印刷代の上昇等の場合と同様に、その出費の範囲内での負担を消費者に求めたとしても、そのことが直ちに独禁法の規定にいう「一般消費者の利益を不当に害することとなる場合」に該当することとなるものではない。そもそも再販商品については、消費者の支払う消費税込みの価格がいくらであるかが分かるようにこれを商品に表示することが、消費者の適正な商品の選択に資するという観点から適当であると考えられるのであり、本件公表文の公表は、そのような観点から、一般消費者の利益を図る目的をもってなされたものである。

五  本件公表文の公表の適法性に関する主張に対する原告らの再反論

1  独禁法二四条の二第一項は、再販売価格を、それぞれの段階の事業者が「その商品を販売する価格」としているのみであり、これを「税込の小売価格」としているものではない。

税制改革法が売買価格の表示について内税方式と外税方式のいずれを採用してもよいとする立場をとっていること、更に消費税法が免税事業者の制度を設けていること等からすれば、再販商品についても外税方式の定価表示によって商品を流通させる途は残されるべきであり、右独禁法二四条の二第一項の規定は、定価の表示について内税方式を強制することの根拠となるものではないというべきである。

2  本件公表文の公表は、書籍の販売に関する消費税の過剰転嫁に止まらず、便乗値上げ、既刊本の絶版、書籍の奥付における定価表示の消滅、定価表示の変更に要する経費増に伴う定価の上昇等、消費者の不利益を招く各種の深刻な事態をもたらしている。これらの点からしても、本件公表文の公表等の違法性は明らかなものというべきである。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一本件公表文の公表の取消等を求める訴えの適否について

原告らは、本件公表文の公表が抗告訴訟の対象となる行政処分に該当するものとして、主位的にその取消しを、予備的にその無効確認を、それぞれ求めている。

しかし、本件公表文は、その記載の内容からしても、被告らの主張するように、消費税導入後の再販制度の運用に関して問題となってくる独禁法の規定の解釈等について、被告公取の考え方を説明したに止まるものであることは明らかなものというべきである。そもそも、独禁法の関係規定の定めからしても、事業者等に独禁法に違反する行為があった場合には、その個別の行為に対して被告公取による排除措置等がとられることとなっており(独禁法七条、七条の二、八条、八条の二等)、この排除措置等によって初めて、当該事業者等に対して具体的な法律上の義務等が課されることとなるわけであり、これと離れて、本件公表文のような形で行われる被告公取の法解釈等の公表について、それが直接国民に対して何らかの法的効果を持つべきことを定めた規定は見当たらないところである。そうすると、本件公表文の公表は、被告公取が今後そこに説明されたような法解釈を前提とした独禁法の運用を行っていくことが予想されることとなるものではあるにしても、それ自体が直ちに、直接国民の権利義務に法的な影響を及ぼし、あるいはその範囲を具体的に確定するという効果を持つものではないといわなければならない。

これに対して原告らは、原告ら出版業者が被告公取の公表した本件公表文の内容に従わざるを得ないとする種々の事情を主張している。しかし、仮に原告らの主張するような事情があったとしても、そのような事情はいずれも本件公表文の事実上の効果をいうに過ぎないものであり、これらの事情を理由に、本件公表文の公表が直接国民に対して法的な影響を持つものとすることはできない。したがって、原告らのこの点に関する主張は採用できない。

そうすると、本件公表文の公表は、抗告訴訟の対象となる行政処分には該当しないものというべきであるから、その取消しあるいは無効確認を求める原告らの被告公取に対する本件各訴えは、その余の点について判断するまでもなく、いずれも不適法な訴えとして、却下を免れないこととなる。

第二被告国に対する国家賠償請求の訴えの適否について

被告国は、被告公取に対する前記抗告訴訟が不適法な訴えとして却下されるべきものである以上、この抗告訴訟と同一の訴訟手続内で審判されることのみを目的としてこれに併合提起された被告国に対する国家賠償請求の訴えも、不適法として却下されるべきであると主張する。

しかし、抗告訴訟と国家賠償請求訴訟とが併合提起された場合においても、その国家賠償請求訴訟について管轄等の問題をも含めた訴えの適法要件が備わっている場合には、当事者が特に抗告訴訟が不適法と判断された場合には国家賠償請求訴訟に対する審判を求めないものとしているというような特殊な事情がある場合を除いては、抗告訴訟が不適法であるからといって、これによって国家賠償請求訴訟も不適法となるものと解すべき根拠はない。しかも、本件国家賠償請求の訴えについて、右のような特殊な事情があるものとも認められない。

そうすると、本件国家賠償請求の訴えは適法なものというべきであるから、当裁判所としては、これを独立の訴えとして扱って、これに対する審理、判断を行うべきこととなる。

第三被告国に対する国家賠償請求の訴えの当否について

一本件公表文に示された独禁法の規定の解釈等の適否

1  消費税導入後の再販商品の再販売価格の意義

(一) 本件公表文の公表等が違法であるとする原告らの主張は、まず第一に、独禁法二四条の二第一項の小売段階での再販売価格を、消費税抜きの商品のいわゆる本体価格のみをいうものとする解釈をその根拠とするものである。

ところで、独禁法二四条の二第一項は、商品の販売の相手方たる事業者(本件で問題となっている書籍の小売価格に関していえば、書店がこれに当たることとなろう。)がその商品(書籍)を販売する価格をもって、その商品の再販売価格とするものと定義している。しかも、消費税法によれば、消費税の納税義務者とされているのは事業者であって消費者ではなく(消費税法四条、五条)、ただ、経済的、実質的にみて事業者が納税義務を負う消費税の負担が、その消費税相当分の価格が商品の販売価格に上乗せされるという形で、その商品を購入する消費者に転嫁されることが予想されている(税制改革法一一条)に過ぎない。すなわち、法律的にいえば、書店が書籍を消費者に販売する場合も、書店が書籍の価格に併せて消費者から消費税を徴収してこれを国に納入するというものではなく、書店が消費者に販売した書籍の価格の中には実質的、経済的にみると消費税相当分が含まれていることとなることから、その売上代金の中から消費税に相当する部分を、あくまで書店自らが納税義務者となって国に納付するということになるものである。そうすると、独禁法二四条の二第一項にいう再販売価格は、論理的にいって、消費税相当分を含んだ価格として消費者が書店に支払う価格でしかあり得ないこととなる。

したがって、この点に関する原告らの主張は、法的にみて根拠に乏しいものといわざるを得ず、この小売段階の再販売価格を消費者が支払う消費税込みの価格であるとする本件公表文中の被告公取の解釈が、法律的にみて正しいものというべきことになる。

(二) これに対し、原告らは、まず、独禁法二四条の二の規定は、書籍等の再販商品について、再販売価格の決定や表示の在り方等法律上許容される再販行為の具体的方法を制限的に定めているものではなく、事業者がその自主的判断によって広く再販行為を行うことができる旨を定めた規定と解されるから、同条の規定は、消費税抜きの商品の本体価格のみを再販売価格として決定し維持する再販行為をも許容しているものと解すべきであり、したがって、ここにいう再販売価格を常に消費税込みの価格と解すべき根拠はないと主張する。

しかし、同条の規定の文言からすれば、例外的に独禁法の規定の適用を除外するものとされている再販行為が、「事業者がその商品を販売する価格」、すなわち前記のとおりの消費税相当分を含んだ価格として消費者が事業者に支払う価格を決定し維持するためにする正当な行為に限定されていることは明らかなものといわなければならず、原告らの主張するような右の販売価格の一部を構成する消費税相当分を除外した商品の本体価格に相当する部分のみについてその価格を決定し維持するための再販行為をも許容しているものと解することはできないから、原告らの主張を採用することはできない。

また、原告らは、消費税法二条八号及び四条一項の規定が、対価を得て行われる資産等の譲渡に対して消費税を課するものとしながら、同法二八条の規定が右資産等の譲渡の対価の額には消費税に相当する額を含まないものとしていることからしても、独禁法二四条の二にいう再販売価格を消費税込みの価格のみをいうものと解すべき法的根拠はないと主張する。

しかし、右の消費税法二八条の規定は、単に消費税の課税標準を消費税に相当する額を含まない資産等の譲渡の対価の額とする旨を規定したものに過ぎず、他方、独禁法二四条の二の規定にいう再販売価格とは、前記のとおり、その規定の文言からして消費者たる購入者が当該商品購入の際に事業者に対して支払うべき価格をいうものと解する以外になく、しかも消費税の納税義務者とされているのが事業者であって消費者ではないことからして、右の事業者に対して支払うべき価格の中には消費税に相当する額が含まれることとならざるを得ないのである。そうすると、右消費税法二八条等の規定にいう対価の意義と右独禁法二四条の二の規定にいう再販売価格の意義とを同一に解すべき根拠は何ら存しないものというべきであるから、この点に関する原告らの主張も採用できない。

更に、原告らは、書籍の小売段階での再販売価格を本件公表文のいうように消費税込みの価格とすることになれば、消費税の税率等との関係で、書籍の再販売価格(定価)を出版社が決定、維持することができないことになると主張する。

しかし、前記のような消費税制度の仕組みからすれば、出版社が書籍の定価を決定するに当たって、常にその本体の価格をまず定めた上でそれに厳密に計算された消費税額に相当する金額を上乗せするという方法を採用しなければならないこととされているものではないというべきである。出版社が書籍について再販行為を行おうとする場合には、独禁法の前記規定の定めからして、あらかじめこれを消費者に販売する価格を定めなければならないこととなるのであるから、その流通の過程で各事業者が負担すべきこととなる消費税の税率等をも考慮した上で、一定の額をその再販価格として定めればそれで足りるということになろう。したがって、原告らの右の主張も失当なものといわざるを得ない。

2  再販売価格の設定方法

次に、原告らは、本件公表文が、再販行為を実施する事業者が免税事業者と課税事業者に対して消費税相当分を含んだ同一の再販売価格を設定することも可能であるとしていることが、免税事業者が消費者から消費税相当額として受け取った代金を自らのものとすることを認めることになり、一般消費者の利益を不当に害することとなるから、独禁法二四条の二第一項ただし書に違反すると主張する。

しかし、もともと再販制度のもとでは、再販商品を買い受けて販売する個々の小売業者の利益率等が異なる場合であっても、再販行為を実施する事業者が全小売業者について統一的な再販売価格を指定することが認められているものと考えられることは被告らの主張するとおりであるし、また、消費税の実施に伴い、免税事業者の場合であっても、その仕入価格は原則として消費税込みの価格となり、しかも、課税事業者と免税事業者とで異なる再販売価格を設定した場合には、むしろコストアップが生じて再販売価格を上昇させる可能性があると考えられることも被告らの主張するとおりである。そうすると、再販行為を実施する事業者が、その消費税率の範囲内で消費税相当分を商品の価格に上乗せし、課税事業者と免税事業者に対して同一の再販売価格を設定したとしても、それが直ちに一般消費者の利益を不当に害することとなるものではないと考えられるところである。

したがって、原告らの右の主張も、採用することができない。

3  再販売価格(定価)の表示方法

また、原告らは、本件公表文に記載された再販売価格の表示方法が、書籍の価格についていわゆる内税方式の表示を強制するものであるから、違法であると主張する。

しかし、本件公表文は、その一の(3)のアにおいて、いくつかの方法を例示して、そのような価格表示の方法によることが適当と考えられるとしているに過ぎず、そこに例示された表示方法を採用すべきことを強制しようとまでするものでないことは、その文言自体からして明らかなものといわなければならない。しかも、前記のような消費税導入後の再販商品の再販売価格の意味内容からすれば、再販商品である書籍の再販売価格(定価)については、その消費税込みの価格を定価として表示する以外にないこととなるところ、その具体的な定価表示の方法として、本件公表文は、例えば、「定価一、〇〇〇円+三〇円(税)」というような、一般の商品のいわゆる外税方式に近いような表示方法をも例示しているのであり、この点からしても、原告の右主張は失当なものといわなければならない。

なお、原告らは、書籍の場合も、他の商品の場合と同様に、三パーセントの消費税額に相当する金額を書店のレジ段階で一括して本体価格に加算して販売するといういわゆるレジ転嫁方式で、消費税の導入に十分対応していけるから、本件公表文にあるような定価表示方法を強制する必要は認められないとも主張している。

しかし、本件公表文がそこに例示された定価の表示方法を強制しようとまでするものでないと考えられることは前記のとおりである。また、証人石井彰慈の証言によれば、書籍のような再販商品については、従前から、消費者保護等の理由から商品自体に再販売価格を定価として表示することが望ましいものとして、定価表示が行われてきていることが認められる。そうすると、消費税導入後の書籍の再販売価格が消費税相当分を含んだ価格として消費者が書店に支払う価格をいうものと解されることは前記のとおりであるから、消費税導入後の定価の表示としては、右の再販売価格が書籍の定価として表示されるべきこととなるものと考えられ、これを再販商品以外の場合と同視することは当を得ないものといわなければならない。

したがって、原告らのこの点に関する主張も、採用することができない。

4  一般消費者に生ずる不利益

更に、原告らは、本件公表文は、出版業界に混乱をもたらし、消費税の過剰転嫁や便乗値上げ、定価表示の変更に要する経費増に伴う書籍の定価の上昇等、消費者の不利益を招くものであるから、違法であると主張する。

しかし、消費税の導入後において、出版社がその出版する書籍について再販行為を行おうとする場合には、その書籍に表示する定価を消費税込みの価格とすべきことになることは前記のとおりである。この場合、消費税の導入に伴って書籍の出版業者が定価表示の変更等のために新たな経費負担を強いられることとなったときは、出版業者がそれに対応する負担増を消費者に対しても求めたとしても、それが直ちに独禁法の規定にいう「消費者の利益を不当に害することとなる場合」に当たるものでないことは、被告らの主張するとおりである。

したがって、原告らのこの点に関する主張も、理由がないこととなる。

5  結論

そうすると、結局、本件公表文に示された被告公取の独禁法の規定の解釈等は、いずれも適法なものであり、これを違法なものとする原告らの主張は、いずれも理由がないものというべきである。

二被告公取の事務当局者による指導等の適否

1  〈書証番号略〉及び証人橋本寿恵光の証言によれば、原告らの主張するとおり、昭和六三年一二月二八日に被告公取の事務当局者が消費税法の施行に伴う書籍の定価表示の方法に関する問題について出版業界四団体の代表者と面談し、その席で、被告公取側から、消費税法施行後の法定再販商品たる書籍の定価の表示に当たっては消費税込みの価格を定価として表示すべきものであるとの見解が示されたことが認められる(被告公取の担当者が出版四団体の代表者に対して書籍の再販売価格が消費税込みの価格であるとの見解を示したこと自体については、当事者間に争いがない。)。

また、〈書証番号略〉、右橋本証人及び証人春田親邦の各証言並びに原告株式会社新泉社代表者小汀良久の供述によれば、原告らの主張するとおり、被告公取の事務当局者が、平成元年一月一三日、四月一九日及び七月六日の三回にわたって、原告らの加入する流対協の幹事らと面談し、その際、被告公取側から、消費税法施行後の法定再販商品たる書籍の定価の表示方法について、前同様の見解が示されたことが認められる(被告公取の担当者が流対協役員らと三回にわたって面談し、平成元年一月一三日の面談の席で右のような見解を示したこと自体については、当事者間に争いがない。)。

2  原告らは、まず、被告公取の事務当局者による右のような見解を示しての指導あるいは本件公表文の公表が、国家賠償法一条一項にいう国の公務員の違法な公権力の行使に当たると主張する。

しかし、右の見解あるいは本件公表文に示された独禁法の規定の解釈等が違法なものと考えられないことは前記のとおりであるから、原告らの右の主張は採用できない。

3  また、原告らは、右の面談等の席で、被告公取の事務当局者が、右のような内容の公取の見解に従わない出版業者が多数出るようになった場合には、書籍に対する再販制度自体を見直すこともあり得るとして、原告らに対して右の見解に従うことを違法に強要したものであるとも主張する。

確かに、右の〈書証番号略〉、橋本証人及び春田証人の各証言並びに原告会社代表者小汀の供述によれば、右の面談等の席で、被告公取の事務当局者からは、同年一二月に出された臨時行政改革審議会(行革審)の「再販商品につき一般消費者の利益を不当に害しないよう限定的、厳正な運用を行うとともに、今後そのあり方について検討する。」との答申についても言及がなされ、原告らの側では、右の被告公取の示した見解に従わないことは、場合によっては書籍に対する法定再販制度自体を見直すような法改正にもつながりかねないとの危惧を抱くに至ったことがうかがえる。

しかしながら、消費税施行後の法定再販商品たる書籍の定価の表示方法に関する右のような被告公取側の見解の内容自体は、何ら違法なものと認められないことは前記のとおりである。しかも、右面談等の席での被告公取の事務当局者の発言の内容も、原告らの側からすれば場合によっては法改正につながるというニュアンスのものに受け取れた(右小汀の供述)という程度のものであって、それ以上に具体的な内容を持つものではなかったことが認められる。更に、行革審において現に右のような内容の答申が出されていたことからすれば、被告公取の事務当局者が右のようないい方で右答申の内容に言及したことをもって、違法な強要に当たるものとまですることは、到底困難なものといわなければならない。

4  結局、被告公取の事務当局者による右のような指導等に違法な点があったとする原告らの主張は、理由がないものというべきである。

三結語

そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告らの被告国に対する国家賠償の請求は、理由がないものとして棄却を免れないこととなる。

(裁判長裁判官涌井紀夫 裁判官小池裕 裁判官近田正晴)

別紙二消費税導入に伴う再販売価格維持制度の運用について

平成元年 二月二二日

公正取引委員会事務局

再販売価格維持行為(再販行為)は、独占禁止法第一九条により原則として禁止されているが、公正取引委員会が指定する特定の商品(指定商品)及び著作発行物(法定商品)の再販行為については、消費者の利益を不当に害さない限り、同法第二四条の二の規定により、例外的に同法第一九条の適用が除外されている(再販売価格維持制度)。

今回、消費税の導入に当たって、指定商品及び法定商品の再販行為において、消費者の利益が不当に害されることなく消費税の円滑かつ適正な転嫁が行われるようにするため、次の考え方により再販売価格維持制度の運用を行うこととする。

一、一般消費者の利益を不当に害することのない再販売価格の設定及びその表示の方法

(1) 再販売価格

ア 独占禁止法第二四条の二では、「再販売価格」は、再販商品を買い受けて販売する卸売業者や小売業者が「その商品を販売する価格」とされている。したがって、小売段階の再販売価格は、消費者が支払う消費税込みの価格である。

イ 消費税導入にともない、免税事業者と課税事業者に対し同一の再販売価格を設定するか否かは、再販行為を実施する事業者自らが判断することであるが、消費税相当分を含んだ同一の再販売価格とすることも可能である。

ウ 消費税相当分上乗せした結果、計算上生じる端数処理については、円未満を四捨五入または切り捨てる方法によることは問題ないが、これ以外の方法については、対象商品の値付け単位、取引慣行、上乗せ前の価格からの上昇の度合いなどを考慮して、合理的と認められるものである必要がある。

(2) 物品税との関係

再販商品の一部には現在蔵出段階で物品税が課されている。消費税導入に伴い、これらの物品税は廃止されることとなるので、物品税廃止によるコストの低下がそれらの商品の再販売価格に適正に反映されるものとする。

(3) 表示方法

ア 価格表示は、消費者の適正な商品選択に資する観点から、消費者に再販売価格が消費税込みであることが分かるよう、次のような表示によることが適当と考えられる。

①   一、〇三〇円(含、税三〇円)

②   一、〇三〇円(本体一、〇〇〇円、税相当分(または税)三〇円)

③   一、〇三〇円(税抜き一、〇〇〇円)

④   一、〇〇〇円+三〇円(税)

⑤   一、〇三〇円(税込み)

(なお、法定商品についてはを「定価」と置き換える。)

イ 小売業者が店内で商品について消費税抜き価格を表示し、その消費税抜き価格をレジで集計した後、一括して消費税相当分を加算して消費者へ請求する販売方式を採る場合には、メーカーの付した表示とは別に消費税抜き価格を商品に表示しても差し支えない。

この場合において、円未満について合理的な端数処理を行うことにより、別に表示した消費税抜き価格に消費税相当分を加算した後の価格が再販売価格となるよう留意することとする。

ウ 消費税法適用日前の流通在庫品については、小売業者がメーカーからの価格変更通知を受けてシール等により上記アに例示したような価格表示に変更することとなるが、それが繁雑な場合には、一時的な措置として、在庫品については別途消費税相当分を請求する旨を店頭または店内に表示する方法によっても差し支えない。

二、再販売価格の変更及びその届出

(1) 指定商品については、再販行為を実施する事業者は、再販売価格を変更したときは、その変更契約を締結した日から三〇日以内に公正取引委員会に変更届を提出しなければならない。このため、消費税導入にともない、従来の再販売価格に消費税相当分を上乗せしたものを新たな再販売価格として設定する場合には、変更届が必要となる。この変更届については、変更理由は「消費税導入のため」などの簡単な記載で足りるものとする。

(2) 法定商品については、再販行為を実施する出版社等が再販売価格を変更し、これを卸(取次)を通じ小売業者へ通知することにより、小売業者の再販売価格を変更することができる。

三、化粧品の告示改正

現在、指定商品の一つである化粧品については、告示(昭和四三年公正取引委員会告示第九一号)で小売価格一、〇〇〇円以下のものに限定しているが、消費税導入に伴う消費税相当分の価格引上げに対応するため、同告示を改正し、これを小売価格一、〇三〇円以下のものとする。

別紙損害金額一覧表(一)(二)(三)〈省略〉

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